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2011/01/07

そしてフライパンはどうなった

いつもと同じように年が暮れ、
いつもとさして変わらない新年を迎えた。

まあ目を凝らして探せば
暮らしのどんな側面にも
ささやかな変化はあるだろうにしても
それは思わず動揺するほどだったり
個人的な事件になるほどの
大それたスケールではなく、
こういう状況こそを平和と呼ぶべきだろう、
という正月だった。


シンプルに暮らしたい、という欲望が
潜在的にある。
もともと思考言動ともに
ゴチャゴチャ散らかった性格だろうし、
そんな人間が何をか云わんやだが、
身のまわりにあるものひとつひとつには
よけいな装飾や奇を衒ったデザインは
望ましくなくて、なるべくそのものの持つ
本質的な部分だけをカタチにしたものが
好もしいと思っている。
それは飾り気のない白木の家具だったり、
洗いざらしの木綿のシャツだったり。

去年の後半くらいから家のフライパンが
どうも調子よくなくて不自由していた。
我が家では最もヘビーローテーションで
活躍していたのだが、
本来安物ということもあり、
表面処理の層が
まだらに剥がれてささくれ立ち、
焦げつき防止の用を為さなくなっていた。
これには妻ともども辟易し、
もらいものの百貨店の商品券が
たまってきたので
ひとつ高級なフライパンを新調しよう、
という話になった。

高級と云っても
我々の暮らしのものさしでは
せいぜい五千円が限度である。

ほしいのは鉄のフライパン、
と妻が云った。
いわゆる何も修飾語をつけないで
皆がフライパン、と口にしたときに
思い浮かべるような、
素朴な鉄のフライパンである。
フッ素や何かカタカナの名称の
特殊な表面処理などされておらず、
油を馴染ませて使いこむタイプのもので、
昔ながらのずしりとした
重みのあるタイプだ。
云い方を変えれば重くて手入れが大変、
だがそれこそが本来の
フライパンのあるべき姿、という
尊敬にも似た気持ちがこちらにはある。

しかしメーカーとしては
あれこれ工夫を凝らして
消費者の眼にとまろうと躍起であるから、
そういう何の変哲もないような定番商品こそ、
かえって今では
見つけづらくなっているという状況が
ぼんやりと予測できた。

ワタクシと妻とはまなじりを吊り上げて
両の拳をひしと握りしめ、
新年のバーゲンに湧きかえるキタの街に
勇躍繰り出した。

ところが。これが。

新年4日のキタは誰もかも笑顔で、
HEPの前の交差点を行き交う人の群れは
いつもにもまして賑々しく、少しうんざりする。

ちなみにこの日はほかにもあわよくば
買い替えたいものがあった。
一年でずいぶんボロボロになった
ワタクシの財布、
尻の部分がすりきれて穴が明きはじめた
ワタクシのパジャマ、そして
いつか法事のときに使って以来
行方不明になったネクタイピンである。
これらも物色しつつの移動を
目論んでいた。

財布は首尾よく新年のバーゲンのものを
百貨店の商品券でゲットし、
幸先のいいスタートかに思えた。
しかし出発の前の
定番商品ほど店頭に置いていないものだ、
という予測はモノの見事に的中。

件のフライパンであるが、
まず向かった若い人向けの店では
ほとんどすべてが
マーブルコートとかなんとかの
ぎらぎらした表面の、
それも手に持ってすっと軽いような
アルミやステンレス製、
そしてどこか不要にデザインなど
つけくわえたものばかりなのだ。

続いて足を伸ばした百貨店では、
望むような鉄のフライパンはあったものの、
なぜか柄の部分が絶望的にカッコ悪い。
そして予算もビミョーにオーバーの
6000円台からのラインナップ。

唯一いいと思えたものが無印良品の
鉄黒皮フライパン(26cm)であったが、
残念ながらサイズがひとまわり小さい。
我々としてはお好み焼きが
通常サイズでひっくり返せて、
餃子も浜松風に環状に並べて
羽根つきにできる大きさがほしい。


余談ながら百貨店では、
先日妻が知人から譲り受けた
ブランド鍋が、相当高価でひるんだ。

なんでも新しく引っ越したマンションが
IHコンロしかなく、
いままでの鍋が使えないからと
3つセットでもらってきたのだ。
Vitacraftというブランドの製品で、
ひとり用のみそ汁などをつくるのに
ぴったりの小鍋、
炒め物からちょっとした煮物までこなせる
中サイズの鍋、
そしてシチューや煮物に活躍する
深鍋の3つである。
これが火にかけたときに比熱がとてもよく、
いったん湧くと後はとろ火でも
じゅうぶん火が入ってゆく。
これはいいもらいものをしたと
日々重宝しているのであるが、
それはそれは驚くほどの値段であった。
いまならちょっとした
海外旅行に行けるくらいだ。

ふぁー。

近々お礼を返さねばならぬ、
とふたりして神妙な面持ちになる。


閑話休題、パジャマもネクタイピンも
やはり同様にごくシンプルなものを、と
探して回ったのだが、
たとえばパジャマの場合
今の時期不用意にフリースなどの
あったかもこもこ素材で、
春先には着られないものばかりであったり、
とにかく思うようなものが見つからない。

パジャマとネクタイピンは
次の機会に譲ると決断。
年始の人混みの中をあちこちハシゴして
へろへろになった我々は、這うほうの体で
帰りに寄った地元のジャスコで
最後のフライパン探しをするが、玉砕。
思うものを見つけられなかった。

なぜだ、我々がほしいのは
何も世界にひとつだけの別注ものとか
なにかプレミアのついたものではなく、
ただの重たい鉄のフライパンである。
いつの間に日本のキッチン事情は
焦げつかなくて軽い新素材フライパンに
占拠されてしまったのか。

そして気に入らないのが
鍋自体のシェイプである。
我々がほしいのは
わりと底の平べったい部分が大きく
壁は急傾斜でそそり立っているような
ソリッドなものであるが、
最近のは半ば中華鍋然として
壁部分からラウンド形状を描きつつ
すり鉢状になっているのである。
これでお好み焼きとか餃子とか
どう焼けというのか。
世の奥様連中はどう対処しているのか。


軽い絶望にも似た気持ちで、
我々は後日、最後の望みを託して
近所のホームセンター・コー○ンに。

すると、フライパンの神は
最後まであがく
我々を見捨てなかったと見え、
そこになんとか望みのサイズより
やや小ぶりの鉄黒皮フライパンを
見つけたのである。
ほとんどが新素材の
表面加工済みのものに
棚を占領される中、
わずかに3種類だけ鉄黒皮のものを発見。
そのうちひとつが
おあつらえ向きであった。
サイズもかたちも、しつこいようだが
ギリギリお好み焼き一人前と
羽根つき餃子を可能にするものである。

欲を云えばもう少し
底面が広いものがほしかったが、
これ以上の深追いは疲弊を増すばかりと
戦略的判断を下し、購入を決議。
1480円くらいであった。

何だ最初からココ来りゃいいじゃん、
という声が大方の意見であろうが、
それよりも我々にはこのフライパン問題が
とうとう解決したことがうれしかった。

いま台所のコンロの下で
重い鉄フライパンは
静かに出番を待っている。

せっかく買ったけどゆうべはお鍋、
今夜は鶏の唐揚げ。
だがしかし遠くない将来、
このフライパンがじゅうじゅう音を鳴らして
我々の食卓を愉快にさせてくれるに
違いないのである。
じっくり時間をかけて、
カリッカリの黒々とした年代物に
仕上げてゆきたいと思う。


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コメント

途中で、なんで道具屋筋行かへんねんな!
と思ったけど、コーナンにあったてオチか・・
なるほど、勉強させてもらいました。

投稿: 店長 | 2011/01/07 午後 04時20分

あ~商品券使いたかったんやった・・失念してた

投稿: 店長 | 2011/01/07 午後 04時23分

いや~道具屋筋も考えたんですけど
我々の住まいからちょっと遠いのんが
億劫なんです。自転車で行ったので。
またそもそも百貨店の商品券を使おうという
心づもりでしたしね~。
ほんで他の買い物もあったし。

それにしても、あたりまえの
ど真ん中そのものズバリの商品って
どんどん少なくなっている気がします。

投稿: キノタク | 2011/01/07 午後 04時28分

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