本当にあったら不思議な話
「あたしじたいは
そんな霊感とかないんですけど」
ごく明るい口調でHちゃんは語りはじめた。
Hちゃんは一緒の番組で
よく仕事をさせてもらっている
まだ22歳のリポーターだ。
いろいろ体を張ったロケにも
嫌な顔ひとつせず挑戦し、
期待以上のリアクションをしてくれる。
そのうえスタッフとも垣根なく気さくに
話をしてくれるというので、
仲間内でもけっこう評判がいい。
この日、我々の現場は
市内からだいぶ離れていて、
移動が2時間以上におよんだ。
変わり映えしない高速道路の景色に
飽き飽きしたメンバーは、
誰からともなく怖い話を
交互に語るようになっていた。
「これはあたしの
おばあちゃんが戦時中に
体験した話らしいんです」
彼女は運転席側のスタッフにも
聴こえるように身を乗り出しながら、
どこを見るとでもなく続けた。
当時、おばあちゃんは
まだ学校に上がる前で、
5歳とか6歳でした。
家が市内だったので
空襲とかけっこうひどかったらしくって、
毎日のように何て云うんですか、
サイレン、ああ空襲警報の、
あれが鳴ってたっていうんです。
で、お父さんはもうけっこうな歳で
兵隊には行かなくてよかったんですけど、
十歳以上歳の離れた
いちばん上のお兄ちゃんが
兵隊に徴収されちゃってて、
あとはだんだん疎開していってて、
家にはもう両親と、
自分、てのはおばあちゃんですけど、
しかいなかったらしいんですね。
戦時中だから5歳くらいだとかでも
いろいろ家の仕事を
手伝わされていたんですって。
とにかく人手が
ないじゃないですか、それで。
で、おばあちゃんの日課というのが
玄関掃除だったらしいんですね。
あたしとかだったらその歳で
掃除とかぜったいムリですけどね。
| 固定リンク
| コメント (2)
| トラックバック (0)
最近のコメント