愛と哀しみのうすらベーコン
妻は絶句した。
悪びれる様子もなく店員が持ってきた
愛するうずらベーコンの皿を眼の前にして
妻は絶句した。
そしてワタクシの瞳をじっと見つめた。
自らが眼にしたものが
にわかには
信じられないというふうであった。
不景気という長く続く強い風が
ふいに猛々しい勢いで
ワタクシと彼女の間に吹き込んできて
彼女の頬に浮かんでいたはずの笑みを
一瞬ですっかり
フリーズドライにしてしまった。
乾いた彼女の頬笑みは
端のほうからぱりぱりと割れて
粉のように舞った。
それはワタクシとても同じことで、
あまりに惨めな、
かつて親しんでいたのとは到底違う
うずらベーコンの変わり果てた姿に
憤りと無力感とを同時に感じた。
このままでは日本経済が
骨粗鬆症のようになってしまう、
いやあるいはもうとっくに手遅れで
症状は進んでしまっているのかも、
そう思わされた。
きょうワタクシはわりと早くおしごとを
終えたのではあったが、
しかし晩メシの買い物をして
支度をするには遅く、
かといってふたり別々に済ませるほど
でもない、という中途半端な
時刻にさしかかっていた。
冷蔵庫の中の備蓄も乏しかった。
月末でもあるし、思いきって
妻と近くの焼き鳥屋に
出かけることにした。
そこは所謂チェーンの店で
あえて名を伏すが(吉がつきます)
家から近いし、安いしで
我々が外食、と決めると
つねに第一候補に挙がる店であった。
彼女はそこの
うずらベーコンが好物だったのである。
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