私の机の上の消しゴム

それなりに起伏はあれど、
ポケットサイズの
ドライブゲームのような
平穏さの中で、
我が人生は続いている。

道を俯瞰で描いた
ビニールのロールが
ゼンマイあるいは
単三電池とモーターの力で
縦にスクロールし、その上を
リッツ・クラッカーくらいの大きさの
ハンドルにつながった
ちっぽけなプラスチックのクルマが
ふらふら蛇行しながら
なぞってゆくだけの
昔懐かしいドライブゲームである。

そこには明確なスコアも
タイム測定もなければ
派手なクラッシュも
鮮やかなドリフトもない。
どんなに荒くれた
運転をしたところで
クルマそのものが
ゲーム上のルートから
すっかり外れて
どこか未開の地を目指したり
することはない。

ま、そんな感じでしてな。
良くも悪くも。

まあでも将来の保証など
何もない暮らしを
しているわけだから
それなりに危機管理は
していかなければならぬと
思いつつも。

切羽詰まった感覚が
まるでないから
まったく困り者である。

危機感と云えば。

今ワタクシの机の上には
なぜか使いかけの消しゴムが
７つもあるのだ。

すべて何の変哲もない
ＭＯＮＯやＡＩＲ-INなどの
事務用の
白いプラスチック消しゴムである。

どうも、日頃から
消しゴムの欠乏に関して
並みならぬ危機感を
抱いているらしい。
仕事先の共用デスクなどで
持ち主不明の消しゴムを
発見すると、
かならずカバンやポケットに
滑り込ませて
持って帰ってきてしまうのである。

ある日思い立って、それらを
ひとつところに
集めてみたところ、
なんと７個もあったというわけだ。

まだカバンの中にも
ふたつは忍ばせてあるから
合計９個の消しゴムを
収集してきたことになる。

手書き文書を、
それもシャーペンや鉛筆で書く
機会そのものが
減ってきているから、
おそらくこの消しゴム群は
処分でもしないかぎり
とうぶんなくならないだろう。

貧乏性が後れ毛のように
思わぬところから
顔を出してしまっているのだ。

しかし相変わらず
貯金はなきに等しく、
貧乏性やむなしとは云っても
それなりに週７日とも
仕事が入っていることもあり。
住居兼オフィスとしての
我が一人乗りロケット
（+友好的な宇宙人）は
機能拡充を
図っているところである。

たとえば今年ついに
ホットカーペットを買った。
２畳用のヤツを
コーナンの創業祭のセールで
5,000円くらいで購入。

これが。

おそろしく重宝。

今年は暖冬だというから
どうも真価を
フルに発揮しそうになく、
なのに買っちゃうところが
ひじょうに時期を見ておらず
我ながらどんくさいが。

しかしそれでも
地上の楽園が
赤外線とともに出現。

そこにくわえて、
おっきめの土鍋
（ジャスコにて800円くらい）や
ガラス蓋つき煮込み鍋
（コーナンにて1,500円くらい）
なども入手したので、
いっきに食卓に
展開できるメニューの
可能性が拡がってきている。

ホットカーペットでお鍋をつつく、
そんなあたりまえの幸せが
とうとうワタクシのところにも
舞い降りてきたんである。
水炊き、チゲ、寄せ鍋、
そのあたりはもうひととおり
試してしまった。
毎晩ぬくぬくである。

それもこれも
おしごとのおかげである。

そして今夜はどうも
勤労感謝の日らしい
ということで、
いろいろ関係各方面に
感謝しつつ、
ええいきょうはご馳走でも
つくんなきゃいけねえやああと
ムダに意気込み、
半額セールでも500円する
牛スネ肉を買い、
昼過ぎからくつくつ煮込んで
ビーフシチューを
つくったのだった。

すると、個人史上いちばん
よくできたくらいに美味。
長時間煮込んだスネ肉は
とてもやわらかく、
筋肉の繊維方向に沿って
口の中でほろほろと崩れる。
タマネギなどはむろん跡形もなく
ルウに溶け込んでいる。
じゃがいもは割った断面に
デミグラスの煉瓦色の
グラデーションができるくらい、
味が染みていた。

まっことうまかったぜよ。

あまりにおいしくて
イージューデーライダーとしては
あきらかにオーバーカロリーな
量を摂取。

おなかがはちきれそうでしてな。

いっしょに成人男子の
一人前以上を
うまいうまいとたいらげた
カノジョなんかは
そのままおなかをさすりつつ
数時間前に昏倒した。

いまもワタクシの背後に横たわる
カノジョは、温かい
大きな芋虫のやうである。
そのうち繭とか張りそうなくらい
すやすやと眠つてゐる。

こんな平和なドライブゲームが、
まだひとしきり
続いていけばいいなと
思つてゐるきょうこの頃である。

得点差で誰かと競って
勝ったり負けたり
というようなものじゃ
ないんだああ。

それにしても
７時に夕食にしたのに
まだおなかが苦しいのは
なぜ。

たぶんふたりで
４人前くらい食べたな。