赤いはさみとクララベル号
ぬくい。陽射しがとても。
きょうはなんでも5月上旬並みの
陽気になったらしくて、
そう云われるのも納得のぬくさであった。
陽射しに力があった。
熱と光と、それはエネルギー、って
中学くらいに理科で習ったことであるが、
ああなるほどって
いまさらやっと実感した次第であった。
あんまりぬくいんで、
ワタクシは、きょう、
キタにある仕事先から
難波千日前の取材先まで
ママチャリ型短距離強行偵察機
ナンホック号で
行ってみようかなと思いたった。
その距離6kmくらいだって。
田舎ならへえぷうで
チャリの移動距離ではあるが、
しかし街中ではけっこう遠いんである。
本町も心斎橋も通り過ぎるし。
リンドバーグの冒険に
較ぶべくもない、ささいな挑戦である。
でも現実は、やはりへえぷうで、
30分くらいですいすい着いた。
原付型中距離爆撃機
アドレスV100沈思黙考号
トリコロールSPLだと
10~15分くらいであるから
なかなかあなどりがたい好タイムなのだ。
運動不足解消にもなり、しかも
交通費がタダ。
そんでもって、ほんわか暖かい
昼下がりの街並みを
ガニマタでふらふら走るひととき、
プライスレス。
思わずカノジョにメールするくらい
気持ちがほぐれた。
思えばきのうは
仕事が思いっきりこじれて、
あちこち謝って頭下げての修正で、
それが12時くらいになって、
もうそれはズンドコのどん底の
テンションであったのだ。
この気分の乱高下、
はたして
まともなオトナの情緒であるのか
いささか自分でも心配であるが、
しかしそのトランポリンのような
気持ちの凹みと弾みのあいだで
どうにかバランスをとっている
今日の自分であった。
無事、取材先での打ち合わせを終え、
我が旗艦であるところの
ひとり乗りロケットに帰りつき、
ナンホック号の鍵を
新しく買ったキーホルダーの
リングに通した。
このキーホルダー、ひじょうにいい。
新しく買ったものとしては
すんなり手になじみ、
自分の生活に
違和感なく溶け込んでくれた。
たかがキーホルダーであるが、
しかしワタクシ、毎日使うものを
買い換えるのは
ひじょうに精神的に覚悟を伴うのである。
物心ついてからとゆうもの、
たぶん世間の平均より
1.2~1.5倍くらい物欲はあって、
あれが気になる、それがあればな、
あんなのって魅力的、
こんなのって自分に合うと思う、
ほしい~、ってゆう衝動は
わりとあるほうだと思う。
逆にそうゆう衝動がないときって、
ひどく落ち込んで低迷している時期か、
精神的に充実しているときである。
では、カノジョができたから、
精神的に満たされて、
いまのところ、なんかべつに
高額商品はほしくないかと云ったら
それがそうでもなくて、
新しいバイクとかほしいから
始末に負えない
我が浅ましさである。
ただ、甲斐性なしの貧乏人なので、
辛くも衝動買いの嵐に
巻き込まれるのを
免れてはいるとゆうだけのことである。
でもモノは壊れたりして、それで
買い替えの必要はどうしても出てきて、
資本主義経済を呪う
負け組のひとりである。
そしてあるとき、
キーホルダーが
日々の金属疲労に負けて
知らぬ間に砕けてたのに気づいた。
キーホルダーとゆっても
仮面ライダーやリラックマとかじゃなく、
ぱっちんって、
バネの内蔵したナス環で停める
金具自体のことである。
自分のマンションとか
友人のガレージとかの鍵は
普通のリングにまとめていたのだが、
ナンホック号とアクザワさんの鍵は
そのナス環で着脱していた。
ので、不便はもちろんのこと、
このへんの鍵をなくしたりして
彼らに乗ることが
にわかに不可能になった日には
ココロが挫けてしまうのが
目に見えるようだったので、
先日、デートの途中にLoftに寄って
小一時間キーホルダーを探した。
我々ふたりともキャラクターものから
未だに卒業できていないので、
ま、ワタクシにいたっては
大学も卒業しちゃいないが、
ここが物欲との戦場であった。
しばし我々は売り場をさまよい、
リサとガスパールに夢中になったり、
コープス・ブライドのフィギュアの
値段を見たり、
カピバラさんってゆう
ダメすぎるキャラクターのぬいぐるみを
レジに持って行きかけたりと
危うい吊り橋をどうにか渡り、
あちこちさがして、
けっきょく500円くらいの
質実剛健な金具をゲットに成功。
ホクホクして帰ったった。
この金具がじつによくて好き。
すんなり我が生活に
馴染んだのであった。
腕時計、キーホルダー、
サイフ、ベルト、携帯電話。
日々使うこのへんのものが
リニューアルするとき、
どうかしたら動悸が
早まってるんじゃないかと思うほど、
ワタクシは動揺するんである。
使い勝手が急変すると
落ち着かないんである。
これは我が分身、とも
思えるくらい、心身ともに
アジャストしきったアイテムを
リセットするのが困難なんである。
学生時代はノートを変えるのにも
深呼吸していた。
片思いのあの子が
髪を切ったくらいの衝撃。
100円やそこらで一大決心。
しかしだんたん症状は
快方に向かってはいる。
もともとなんでも
自分のいちばん気に入ったものを
オンリーワンの使い勝手を
手に入れたいとゆう
欲望がある人であったが
だいたい貧乏が手伝って、
歳を重ねるのと平行して、
どうでもよくなってきた。
だってそんないちばんほしいものを
買えたりしないもの。
で、まあこれが我が生活に占める
重要度ってどのくらいよ、って
自問自答して、
まあいいかってなって
そのへんのもんを適当に使うのだが、
その結果べつに不愉快でもなく、
アイデンティティも
なんら揺らいだりしないので、
どんどんそうゆうこだわりから
解放されてきてはいる。
でも未だに、
出かけるとき忘れちゃダメ系の
使用頻度の高いアイテムは
買い替えが怖いんである。
意味もなく緊張する。
不安になる。
どうかしたら同じモノを何個も
ストックしておきたい。
以前に手袋とかスニーカーとかで、
じっさいに複数買った憶えあり。
そしてそれが失われたときに
ひどく落胆するんである。
物心ついて最初に、
これは我が持ち物であると
長く愛したアイテムは、
赤いはさみだった記憶がある。
持ち手が赤のプラスティックで出来た
紙工作用のはさみである。
乱雑な扱いでモノをすぐダメにする
子どもであったが、
このはさみだけはずっと持っていて、
すごく親近感を感じていた。
紙工作に明け暮れた小学生時代、
いつも手元には
このはさみがあった。
いつしか持ち手が割れて、
使いものにならなくなってしまったのだが、
それでもずっと
騙し騙し使おうと苦戦していた。
思えばあのはさみが、
ワタクシに、愛着とか愛用を
教えてくれたのだった。
いまとなっては、どのアイテムにも
そこまでの愛着を
感じているかとゆうと
すなおにうん、と云えない。
このことをカノジョに話すと、
カノジョはもっと手強くて、
これがあたしの! ってのが
見つからないなら
不便してもいいと覚悟するくらいの
頑固さなのだった。
絵を描いたりする人なので、
そのへんはたぶん大事な
美的感覚で、
なくしてほしくないとも思うが、
しかしこれはたいへんだろうなと
想像にかたくない。
じっさいに割れたマグカップを
接着して使っていたが、
どうしても中身が漏れるので、
あきらめて使用を止めたが、
捨てられずに机に飾っているそうである。
こだわるぶん、物を大事にする、
とゆう美徳でもあろうが、
しかしたいへんそうである。
「名前をつけちゃったらあかん」
とカノジョはのたまう。
ま、ワタクシでゆうとクルマとかですね。
アクザワさん。
もう擬人化している。
イメージは元気なおじいちゃん。
いや、前オーナーのイメージではなくて、
クルマの年式の旧さのことである。
きっと別れの時には涙すると思います。
擬人化。これが。
これがまずい。
思い入れたっぷりである。
どうかすると話しかける。
勝手にいろんな思い出を共有する。
カノジョの場合、そのひとつは、
学生の頃
初めて買った原付であったらしい。
ソラマメのような緑色の、
ホンダのジョルノだったという。
他にも安いスクーターはあったが、
ジョルノでなければ要らない、
とまで思ったそうである。
カノジョはそれに、
きかんしゃトーマスの
キャラクターの名前を借りてつけた。
ワタクシは以前百貨店の玩具売り場で
アルバイトしていたので、
きかんしゃトーマスの顔ぶれは
多少知っている。
あのいかにもイギリスっぽい名前から
カノジョはどれを選んだのか。
「アニー&クララベル?」
あてずっぽうで訊くと、
果たしてビンゴであった。
そんな気がしたのだ。
双子の貨車、アニーとクララベル。
クララベルって名前かわいいもん。
「でもな、一台でアニーとクララベルって
呼んでてん」
とすっとこなことをゆう。
ワタクシはカノジョがみろりろの
ジョルノに話しかけているところを
すんなり想像できた。
アニー&クララベル号って、
なんかリンドバーグとかが
乗ってそうな名前で、なかなかよい。
「名前をつけたらあかんな。
事故でダメにしちゃってん、
そんで同じのに買い替えてんけど、
もうその子は
クララベルとちゃうかったわ。
君はチガウ、って思った」
カノジョは遠い眼をした。
通り過ぎてきた時間を
共有した、ただの「モノ」たち。
しかし中には、
よく出来たプロダクトだからか、
自分の世界観や美的感覚に
はまったからか、
それとも数奇な運命を
ともにしてきたからか、
なぜか友人や家族であるとさえ、
思えるものがときにある。
それを、すぱっと捨てれるような
オトナには、できればなりたくないものだ。
たとえ、モノが部屋中にあふれて
足の踏み場がなくなったとしても。
あ、うそです、掃除ちゃんとします。
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コメント
カノジョと僕とどっちが大事なんですか!
キー!
僕にもメールしてくださいよ!!!!
もしかしてあの部屋が
きれいに片付けられてたりしたら
怒り心頭ですよ!
投稿: あわび | 2006/04/19 午前 02時33分
ごめんよー。
ごめんよー。
だってたのしいねんもーん。
部屋はちっとも片づかないので
安心してくれー。
投稿: キノタク | 2006/04/19 午前 11時20分
大阪に来て早5ヶ月、私も今日やっと
自転車を買いましたー!!
赤い自転車を買おうと思って
自転車屋さんをうろうろすること15分、
結局チョコレート色のチャリチャリを購入。
わーい!名前はなんてつけようかな?
意味もなく遠出したくなりました。
と言っても大阪市内は出ないと思いますが。
マンションに帰ってきたら
駐輪場の赤い自転車率が
意外と高かったので、
チョコレート色にして正解でございました。
投稿: 鮎 | 2006/04/20 午前 04時43分
チョコレート色かあー。
ほいじゃあ名前はハーシー号かな。
いや、ハルベリー号ってのが
色気があってよいぞ。
投稿: 鯖 | 2006/04/20 午後 10時36分
自ー転車、自ー転車。
I want to ride my bicy-cle♪
先日はありがとうございました。
おかげさまでどうやら、長年住み慣れた大阪を
離れることができそうです。
>鮎
同じ問題に私も遭遇。
「自転車ってゆったら赤だな」と
以前より心に決めていたのですが、
新居浜の駐輪場を見たら、
赤い自転車の多いこと。
家を出るときの視認性を大事にしたいので、
青か緑にしようと思っています。
名前?
「朝びらき号」とすでに決まっております。
投稿: 鰤@引越し中 | 2006/04/22 午後 03時56分
訂正、訂正。
「朝びらき号」ではなく「朝びらき丸」でした。
ちなみに、将来自動車を買ったら
「中国行きのスロウ・ボート号」という
名前にしようと思います。
鮎彦の自転車は、モノが茶色なので
「チャリー・パーカー」とか
「チャリとチョコレート工場」号がよいのでは。
投稿: 鰤 | 2006/04/22 午後 03時59分
>ちなみに、将来自動車を買ったら
>「中国行きのスロウ・ボート号」という
>名前にしようと思います。
中国になど行かず、ましてやボートなわけがないのが
すさまじく頭弱くてよいな。
ぜえったいそんな名前つけないと思うし。
やっぱ名前って面と向かったときに
つけるもんでしょ。
先にありきの親御さんもようさんいてはるが。
違和感があっちゃあなあ。
>鮎彦の自転車は、モノが茶色なので
>「チャリー・パーカー」とか
>「チャリとチョコレート工場」号がよいのでは。
チャーリー・ブラウン号もベタでよいな。
チャリチョコ号も捨てがたし。
うぃりうぉんか♪ うぃりうぉんか♪
ウンパルンパ号でもよいかのう。
投稿: 鯖 | 2006/04/22 午後 04時31分